DARK MATTER

CDI Engineer's Technical Blog

組込機器の診断・練習風景(足上げ編)

こんにちは。株式会社サイバーディフェンス研究所 手島です。

 

今回はICチップの足上げを練習している風景の紹介と、何故こんな細かいことを行わなければならないのか解説します。

 

何の練習をするの?

ICチップから端子を1本だけ取り出します。
以下、足上げと呼びます。

 

 

足上げで使う道具

  • 実験台の要らなくなった基板

  - USB接続・増設LANポート
  - 10BASE・ハブ(スイッチング機能無し!)

  • 保持器付きルーペ(英語圏では 3rd Hand と呼ぶらしい)
  • まち針
  • 飛来物保護メガネ(まち針の先端が折れた場合、目に刺さらないよう)

 

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 練習風景

実際に写真で見た方が分かりやすいですね。今回の練習では、要らなくなった基板のICチップから特定のピンだけを足上げします。

 

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ルーペで拡大すると・・・

 

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もっと拡大!

 

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写真の下側には、ピンが折れている部分があります。
これは過去の練習で失敗した部分です。

 

目的の確認

ICの各端子は、基板と図中のオレンジ色部分ではんだづけされているので

赤い部分を手前に引き出せば足上げ完了です。

 

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根本からピンが折れてしまうと失敗です!

修復は大変です・・・。

ただし、目的がピンをオープンにするだけなら折れても問題ありません。

※オープン:回路と電気的に接続していない状態

 

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いざ足上げを実行

まずは保護メガネをしましょう。万一、まち針の先端が折れて飛んできたら大変です。

 

 

次にICの端子を寄せて曲げ、まち針が入るスペースを確保します。

 これはピンの左側にスペースを作っている状態。

 

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次に、先ほどの図の赤い部分を意識して、ピンをぐいっと引っ張っります。

 

 

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まち針はなかなか折れません。
もし折れたとしても交換すればよいです。ぐいっと!ぐいっと!!

※これは、別のピンを右側からぐいっと引っ張っている状態です

 

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うまくいくと、こんな感じになります。
ピンが1本、浮いているのが分かりますね!

 

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足上げなんて、こんなのが役に立つの?テストクリップ繋げばいいじゃん。

そう、普段は不要です。単に電気信号をロジックアナライザで得たい場合は要りません。テストクリップを用いると、0.5mmピッチ程度のICならば難なく電気的に接触できます。

 

しかしながら、特定のピンを Hiレベル → Loレベルに切り替えたい場合に、どうしても足上げをせねばならないことがあります。

 

 

※テストクリップって何?

  ICの足に噛みつける部品。はんだづけせずに済むため大変助かります。

 

引用元:株式会社秋月電子通商

  メカノエレクトロニック社製

  マイクロテストクリップFP-7S(0.2~0.5mmピッチIC用 世界最小・超極細)

akizukidenshi.com

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特定のピンって何ですか?

今回は汎用的なRX231マイコンを題材にします。ルネサスエレクトロニクス社のホームページから、RX231マイコンのデータシートをダウンロードしました。

https://www.renesas.com/ja-jp/

 

「RX230グループ、RX231グループ ユーザーズマニュアル ハードウェア編」を見ると、「MD端子」というピンについて以下の記載があります。

 

※MD端子:MoDeの略?私は、動作モードを決めるための端子と認識してます。以下、MDピンと呼びます。

 

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要約するとこうなります。

  • MDピンの Hi /Lo を切り替えるとブートモードにできる
  • ブートモードにすると、勝手に自分で作ったファームウェアを書き込むことができる

 

※実際に機器を出荷する際は、一切のファームウェア(内蔵プログラム)更新を拒否する状態(つまり、二度と書き換え不可能)または、ファームウェアの書き換え時にセキュリティコードによる認証が有効な状態で出荷されることが多いです。

 

役に立つケースを詳しく教えて

プロセッサやマイコンの端子は、基板上のプリントされた回路を通じて別の場所に接続されていることが多いです。そこで接続先をテスタで探し、回路を加工すれば、特定のピンの Hi/Lo や接続先を切り替えられます。

 

※加工って何するの?:
  ・基板上にある抵抗やキャパシタの取り外し
  ・基板にリード線を接続
  ・ユニバーサル基板上で任意の回路を作成

              ・・・という感じで行う。

 

しかしながら、当然例外もあります。
様々な機器の製造時には、工場でマイコンにファームウェアを書き込むでしょう。ここで、当該製品の設計として運用中にファームウェアを書き換える必要が無い場合は、当然ながらMDピンの状態も切り替える必要がありません。製品によっては、複層基板の内部でMDピンが電源ピンに直結されている場合もあります。

 

具体例を図示します。以下の図をご覧下さい。 

この図は回路図ではありません。電気回路が複層基板の内部を通り、基板表面の抵抗器に接続されていることを表したい意図で作成しています。GND、パスコンなども省略しています。

 

この回路では、電池 or 商用電源など何らかの手段を用いて3.3Vの電源を供給し、複層基板内にプリントされた回路を経由してICチップへ電源が供給されています。MD端子は抵抗を介して Hi にプルアップされています。

 

 

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このとき、MDピンを Lo にしたい場合はどうすればよいでしょうか?

このように、抵抗を取り外してリード線でGNDへ接続してしまいましょう。

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では、こんな場合はどうでしょうか。

電源ピンとMDピンが複層基板の内部で直結されています。

 

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この場合、MDピンの状態を変更する手段は、今回練習した足上げしかなくなります。

 

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最後に

弊社が行う組込機器の診断ではチップ単体にも焦点を当てます。足上げは頻繁に行うようなものではありませんが、上記の理由から必要とされ、かつ失敗が許されない作業なのでたまに練習しています。


最後までご覧いただきありがとうございました。

執筆者はあくまでテスト担当者であり回路設計の専門家ではないため、誤りがありましたらご指摘ください。

株式会社サイバーディフェンス研究所 / Cyber Defense Institute Inc.